膝の痛みは実に多くの人が経験する。ことに年をとるにしたがって増え、その原因は変形性膝関節症によるものが多い。
 膝に水が溜まる、正座ができない、動き始めが痛いなどの症状を訴える。これほど多い疾患であるにも係わらず、膝の痛みへの対応を多くの人が誤っている。
 膝に痛みが出ると、「それは運動不足だで、歩かにゃいかん」などと言われて、せっせと歩行訓練をして悪くする人が絶えないのは何故だろうか。痛い時には安静にすべきなのに。

 なぜ膝に痛みがあるときに歩かなければならないと考えるのだろうか。私はその理由をこう考えた。人間には適度の運動が必要である。だから普段運動しないための運動不足により痛みが出たのだろう。 それならその運動不足を解消してやれば痛みはとれるのではないか。つまり、歩けば良いのだと思うのではないかと。しかし、これが大きな間違いなのである。痛みの原因が果たして運動不足によるものだろうか。
 曲がらない膝を曲げ、足が歩くのを嫌がっているのを無理に使っていたために痛くなってきたのではないか。痛みは身体の発する注意信号である。そうして欲しくないために痛みを出すのである。
 だから、歩けば痛いのにそれを我慢して歩けば確実に膝は悪化して、おしまいには歩くことすら出来なくなってしまうのである。

 よく病院でレントゲンを撮ってもらい膝の骨が変形していて治らないと言われ落胆している人がいるが、心配することはない。膝の骨は年をとれば誰でも多かれ少なかれ変形が起こるのである。 しかしその全員が膝の痛みを感じているわけでもないし、痛みがある人でもいつも痛みがあるわけではない。
 つまり、骨の変形だけが痛みの原因ではないのである。膝の骨が減っていても筋肉がしっかりしていれば結構痛みは出ずに生活できる。要は疲れを溜めないようにうまく使ってやることである。

 では膝に痛みが出たらどうすれば良いか。三つのことが必要である。
 一つ目は「痛いことをしないこと」である。痛みの出るようなことをしないこと。例えば膝を曲げて痛ければ、曲げないこと。 正座をして痛ければしないこと、歩いて痛ければ歩かないこと、風呂で温めて痛みが出たら風呂はやめること。
 二つ目は適当な運動。なんだ、さっきは運動をするなと言ったのに、適当な運動とは何だと思われるかも知れないが、膝に対して適当な運動、今の状態を悪化させず、良くする運動が必要なのである。 それは決して歩くことではない。基本的には、ももの前側の筋肉をつけてやることが必要。膝の関節には負担をかけないで、ももの筋肉に抵抗を加えてやるのである。 歩くことは関節に負担をかけるし、筋肉にはそれほどの負荷にはならないので、膝に対して適当な運動ではないのである。
 その運動とは実に簡単。仰向けに寝て膝を伸ばし、爪先を返すようにして床から少し足全体を持ち上げる。これだけ。効果を上げるためにはちょっとしたコツがある。 膝のおさらをぐっと引き上げ、膝の後ろが伸びる感じをつかみながらやると良い。やり方のバリエーションは色々あり、足を45度まで上げ、5秒ほどそのまま保持する。 足首におもりを乗せるなどだが、要はももの前側の筋肉に力をつけてやればよいのである。

 また、この運動は必ずしも寝て行う必要はない。座っていても、立っていても出来る。ただし、立ってやる場合は足を床から浮かせてやらねばならない。 そうしないと、膝を強制的に伸ばすことになりかねず、痛みが出てしまう危険があるからである。
 運動する上で注意する点は、この運動を行うときに膝の痛みを感ずるようであれば、もちろんこの運動を行ってはいけないし、運動のし始めにももの筋肉が痛くなることが、これは今まで使っていなかった筋肉を急に使い始めたために起こる筋肉痛だから、足を上げる回数を減らして、筋肉痛が出ない程度に様子を見ながら行うとよい。 膝の屈伸は痛みがあるうちは行わない方が無難である。この運動は膝に溜まった水を引かせる効果もある。
 そうして三つ目。太っている人は痩せることも必要である。体重が重ければ膝にかかる負担も必然的に大きくなるのだから。

 本来痛みは身体に対して警告を発する注意信号である。痛みがあるから悪いところに気づき、痛みがあるから動かさずに(動かせずに)おくことで悪いところが治ってくるのである。 痛みを悪いもの、無いほうが良いものだと考えるようになったのは、薬学の発達により痛みを消すことが出来るようになったことや、西洋医学の考え方の本質、病を征服する概念(病や痛みは悪で、闘い克服すべきものという考え)と関係があるらしい。
 しかし痛みは決して不必要、悪の存在ではないのである。痛みを止めることは必ずしも良いことではないのである。 例えば、頭が痛かったり、頭痛薬を飲んで痛みを止めることが本筋ではなく、痛みを起こした本質的な原因に、単なる医学的原因にとどまらず、自分の生活のあり方、果ては社会のあり方まで切り込んで、その根本的な原因除去に努めるべきなのである。
 頭痛の多くは筋緊張性頭痛だといわれる。この時には安静して心身を休めてやり、生活や労働の状態を反省してみるのがよい。
 痛みを消すことは、その本質の原因を覆い隠してしまうことになり、根本的な治療を阻害することになる。最近は自分の身体の発する危険信号、疲労感や痛みを感じなくなっている人が増えているという。 体が発する信号に素直に従うことが出来れば、病はもっと減るだろう。痛みを止めることが出来るようになったことが、長い人生においては、果たして良いことであるのかどうかは疑わしいのである。

 膝に話を戻そう。膝に痛みを感じたら、まず痛みの出る動作をやめ、なぜ痛みが起こったかを考えて自分の行動や生活を正すのがよい。 そして膝と相談しながら、ももの筋肉を関節に負担をかけない方法で強化してやるとよい。決して無理して歩行訓練などをしてはならない。