からだの硬い人が
今までの方法でストレッチングを行うと

 ストレッチングの本などに書いてある、軟らかい人を対象にしたこれまでのような方法でからだの硬い人がストレッチングを行うと、感覚的には、ストレッチしようとする目的の筋にここちよいストレッチ感がおこらず、きつかったりし、目的の部分以外のところにストレッチ感や痛みが出てしまいます。 つまり目的の筋はストレッチングされないだけでなく、代償動作が起こり、他の部分に力が加わり障害を起こしかねないのです。からだの硬い人にはからだの硬い人の為の方法がなければならない訳です。

からだの硬い人のためのストレッチングの原則

 今までの方法では、ストレッチさせたい筋肉を一番伸ばした状態に(ピンと張った状態)しておいてからストレッチ動作を始めます。 しかしこの方法では軟らかい人ならうまくストレッチできるのですが(図1上)、硬い人の場合には、目的の筋に伸ばされる力がかかりにくく、他の部分(ストレッチングする筋の関与する関節以外)を曲げる代償動作が起こってしまい障害をおこしやすいのです(図1下)

図1
図1

 ストレッチングは代償動作を起こさないように行わねばなりません。そこで効果的に筋をストレッチできる原則を示します。

原則@ ストレッチに関与する関節以外は固定して行う

 からだの硬い人のストレッチングでの代償動作を防止するには、ストレッチする筋を伸張するように働く関節以外は固定し、動かないようにして代償動作を防ぐか(図2上,図2下)

図2
図2
もしくは、ひとかたまり(1ユニット)にして動かすようにして代償動作を防がねばなりません(図3上,図3下)
図3
図3

原則A 筋を緩めた状態からストレッチングを始める

 からだの硬い人がストレッチングを行うには、始めに伸ばしたい筋を緩めておいて、代償動作を起こさないようにストレッチを行わなければなりません。

原則B 片側ずつ行う

 両側をいっぺんにストレッチングしないように、片側ずつ行えば代償動作を起こしにくくなります。

ももの後側(ハムストリングス・大腿二頭筋)の
ストレッチングの例

今までの方法 例A

 ももの後側の筋の例で説明しましょう。 今までのストレッチングの方法、足を投げ出して座り(長座位)、体を前屈する方法では、軟らかい人は骨盤が前傾し腰を曲げずに前屈できますが(図4上) 、ももの筋が硬い人は、長座位を取るだけで筋はピンと張った状態になっていて、前屈しようとしても、体は前屈せず、前屈したように見えるトリック動作が起こります。 骨盤が後に倒れ、腰が曲がった状態になってしまい、腰に障害を起こしやすいのです(図4下)

図4
図4

今までの方法 例B

 立位で前屈するストレッチングでは、軟らかい人は骨盤が前に倒れて腰を曲げずに体前屈ができます(図5-1)。 しかしからだの硬い人は、ももの筋が硬いため骨盤が前傾せず腰で無理に曲げようとするため、腰を痛め易いのです(図5-2)

図5-1 図5-2
図5-1 図5-2

新たな方法 例1

 立位で行うには、両膝を曲げ前屈して手のひらを床につけ(図6-1)、それから膝をゆっくりとももの後ろの筋肉が気持ちよく伸びる程度まで伸ばします(図6-2)。 引っ張られるここちよさを感じながら、そのままの姿勢で20〜30秒、自然に呼吸し待ちます。こうすれば腰に無理な力がかかりません。

図6-1 図6-2
図6-1 図6-2

新たな方法 例2 クラウチング・スタート・ストレッチング

 まず短距離の「位置について」の姿勢をとり(図6-3)、「用意」の姿勢(図6-4)でストレッチします。 足を前後に開くことで、前に出した足の筋だけをストレッチすることができるので、例1の方法よりも安全にストレッチングできます。

図6-3 図6-4
図6-3 図6-4

 ベッドや椅子などに手をついて行えば、よりからだに負担を掛けずに行えます。この場合は頭をベッドや椅子の座面に着けてやればよいのです(図6-5,図6-6)

図6-5 図6-6
図6-5 図6-6

新たな方法 例3

 椅子に座り、両膝を90度ほどに曲げます。骨盤、腰、背中を真っ直ぐに固定したままの状態で前に倒します(図7-1)。 ストレッチングする下肢の膝を裏を徐々に伸ばしていき(床の上を足の裏を滑らせるように)、ストレッチングします(図7-2)。 目的のももの後側の筋に心地よいストレッチ感が得られたら、20〜30秒間、自然な呼吸で待ちます。

図7-1 図7-2
図7-1 図7-2

新たな方法 例4

 椅子に座り、ストレッチングする下肢の膝を軽く曲げた状態にして、ももの後の筋を緩めておき、他方の膝は深く曲げておきます(図8-1)。 そして骨盤、腰、背中を真っ直ぐにして、ひとかたまりにしたままの状態で前に倒します(図8-2)。 腰や背中をどうしても曲げてしまい易いので、腰に手のひらを当て曲がらないのを確認しながら行います。腹を出すようにして前屈してゆくと良いでしょう。 目的のももの後側の筋に心地よいストレッチ感が得られたら、20〜30秒間、自然な呼吸で待ちます。

図8-1 図8-2
図8-1 図8-2

新たな方法で
効果的に障害なくストレッチング

 からだの硬い人が、いままでの方法で、つまりストレッチングしようとする筋をピンと張った状態で始める方法で行うと、その筋をストレッチする力より他の部位に力がかかり易いのです。 新たな方法ではストレッチングしようとする筋を必ず緩め、他の部位は固定してストレッチを始めます。こうすることにより障害を予防します。
 今までの方法の例Bでは、ももの後の筋(ハムストリングス・大腿二頭筋など)が軟らかい人は、骨盤が充分前傾して腰を曲げることなく前屈できます。 しかし硬い人は骨盤が前傾せずに、腰で曲げようとしてしまい腰を痛めやすいのです。
 新しい方法の例1では、手を着いて膝を曲げた状態から、膝を伸ばし、尻を持ち上げていきストレッチしますから、腰には障害を起こすような力が加わらないのです。 このように新たなストレッチング方法は障害が起こらない方法なのです。
他の部位のストレッチングを行う場合にも… 原則@ ストレッチに関与する関節以外は固定して行う
原則A 筋を緩めた状態からストレッチングを始める
原則B 片側ずつ行う
に則って自分にあった方法を考案していただけば、からだの硬い方でも障害が無く効果的なストレッチングが行えるでしょう。

腰痛の予防にストレッチング

 私がストレッチングを指導し始めたのは、腰痛の予防のためでした。急性腰痛で来院され軽快しても再発を繰り返す方が多いのです。その予防のためにストレッチングを指導していました。
 腰痛の方の多くは股関節や大腿の筋が硬く、その部位が動かないために腰を動かさねばならず、腰部の負担が大きくなり腰痛を起こすのです。 そこで股関節や大腿を柔らかくして動きやすくすれば、腰に負担がかからず、腰痛が予防できます。 ほんのちょっぴり軟らかくなるだけで、腰・下肢の動きの質に変化が起こります。その結果今まで力が集中していた腰部への負荷が軽減されるのです。 ですから腰痛の予防には腰に負担のかからないように、大腿部のストレッチング、股関節の柔軟を行うべきだと考えています。

いい加減にストレッチングを

 日常診療で患者さんにストレッチングをどう指導したら良いのか試行錯誤を繰り返す中で、この新たなストレッチングは生まれました。 幸いにも私自身のからだが硬かったので、私のからだが実験材料になりました。私はストレッチングをまじめにやっていないので、ちょっぴり軟らかくなっただけですが、継続すればからだは柔らかくなるのでしょう。 がんばって継続すれば軟らかくなるでしょうが、趣味でスポーツを楽しむ方や、障害予防にストレッチングをするなら、それほどまじめにやらなくても良いのではと思っています。 いい加減(良い加減)にやるのがストレッチングの本質なのですから。

※筋肉という用語は医学では使われません。正式には筋(きん)と言います。