いわゆる五十肩は50歳代に起こる肩関節の運動障害や痛み主訴とする病気である。最近は60肩、70肩が多くなっている。 さて、一般に五十肩になったらおふろに入って動かせば治るとほとんどの人が思っている。 そこで、五十肩になった人は痛いのを我慢して泣き泣き頑張って治していると思っているが、実際は温めたり動かしたりすることによって確実に悪化の一途を辿るのである。 また、五十肩はほかっておいても治るなどと言う人もいる。そんな人は一度自分が五十肩になってみれば良いのである。放置しておけるものかどうかはすぐに判るから。
私のところに来る五十肩の患者さんに「まずアイシング(氷で冷やすこと)をしなさい、腕は使ってはいけません」と言うと、疑惑の目で私を見るのである。それはそうだ。 一般に五十肩は温めて動かすのが通り相場になっているし、大病院の専門医も同じ事を言い、家庭の医学書までもそう書いてあるのが多いのに、ここに来たらそれと全く逆の事を言われるのである。 市井の一治療家の話など信じられるはずが無いのである。 しかし、五十肩の初期は肩の関節が腫れ、ひどいものは熱も伴っていて、炎症の症状が強いのである。炎症のあるときは患部を冷やし、三角斤で手を吊っておくぐらいの安静も必要になるのである。 また、だいぶ永く病んでいるものでも炎症症状が有るものが多く、アイシング、安静が必要なものが多い。
今まで温めて動かしていたが、痛みは一向にひかず、夜寝られないほどの痛みに悩まされ続けていたのが、アイシングと安静で確実に治まってくれば、懐疑は信頼に変わって来るのである。 冷やす程度や安静度はケースバイケースであるが、冷やす程度は冷やしてみて気持ちがよいか悪いが基準になる。 冷やしてみて気持ちが良ければ続ければ良いし、痛みが出たり嫌な感じがしたら止めなければならない。
安静の程度もちょっと動かしても激痛が走るのなら三角斤で吊ると良い。運動の量や強さは運動中にも運動後にも痛みが出ない程度にすべきで、なんでもかんでもアイロン体操、棒体操というのは駄目である。 痛みが出ない程度に動かすのが良い。また仕事と運動がイコールだと思っている人があるがこれは間違いであるので付け加えておく。
病を直す基本は痛みに素直に従うことだろう。腕をある使い方で動かしたら痛かったのなら、そのような使い方はしない事なのである。なんだ単純な事を言っていると思われるかも知れない。 しかし、なかなか体の発する警告に素直に従えないのが人間なのである。欲、義理、しがらみ、経済などが絡み、疲労感があっても痛みがあっても無視してしまわなければならないのが人の「さが」である。 それが病を作るのである。 五十肩は色々な病態を総称した呼び名であり、病期、病勢など変化があり、治療法を一律には論じられないのではあるが、炎症症状を伴っているものは冷やして、無理に動かさないことが一番早く治すこつである。 温めて動かしても良いのは、長い間病んでいて固まってしまったものだけである。しかし動かし方は痛みが残らない程度が原則である。 五十肩の常識、非常識に泣かされないようにしたい。