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からだの硬〜い私が
ストレッチの本を書いた理由
2013年2月 Web掲載
南信州新聞(2013年2月11日付)に掲載
日々の臨床で体のトラブルを繰り返えす患者さんに接していると、からだの硬い方が多い。例えば、腰の痛みを繰り返す方には腰部はもちろんだが、大腿後側(ももの後ろ側)の筋肉や股関節、背中の動きが硬く動きが悪い。 腰の痛みは腰に何らかのトラブルを生じているのであろうが、その腰に大きな負担をかけるのは腰以外の部位が柔軟性に乏しく、動きが悪いために、その動きを代償して腰がより多く、大きく動かなければならず、その結果腰に負担をかけるからだと考えられる。 この代償する動きを代償動作=トリックモーション(Trick Motion)という。
体の柔軟度を判定する立位体前屈(現在は検査中の腰のトラブルを防ぐために座位体前屈になっているが)の動きを見てみるとそのことが良くわかる。体を前に曲げる動作は、下肢の筋肉、股関節、腰、背中のトータルな動きである。 体前屈が簡単にできる場合はももの後ろ側の筋肉(ハムストリング=大腿二頭筋、半腱半膜様筋)と股関節(股の付け根の関節)が柔らかい。この場合では腰、背中を曲げる必要がなく、例え腰、背中が硬くても前屈動作は制限されない(図1)。 逆にハムストリングか股関節が硬いと体前屈ができにくく、腰や背中を曲げてしまうことになる(図2)。このようにハムストリングや股関節が硬いと腰をより動かさなければならなくなる。腰の痛みを繰りかえす方は腰のみの問題と考えずに下肢や背部も含めた柔軟性を考えてみたらどうだろうか。
図1 | 図2 |
そのハムストリングのストレッチの方法であるが、一般的な方法では立位で下肢をクロスして体前屈する(図3)。
図3 |
だがこの方法だと硬い方は体が曲がらないからハムストリングを伸ばす力がうまく作用しないばかりでなく、腰を曲げる方に力がかかってしまい、腰のトラブルを起こしかねない。 硬い方のハムストリングのストレッチは、クラウチングスタートのように腰を落としておいてから尻を持ち上げる動作にすると、腰に負担をかけずに効率よくストレッチできる(写真1)。
写真1 |
このストレッチの方法は私の体が硬〜いゆえに思いついた方法です。開脚体前屈でも一般的には座位で行うものを(図4)、仰向けで寝て壁を使って行うと腰に負担をかけずに、下肢の重さで楽に行えます(図5)。 このように体の硬い人のストレッチは柔らかい人が行う方法とはトリックモーションを防ぐ別の方法が必要なのです。つまり伸ばしたい筋肉に効率的にストレッチ力を働かせ、トリックモーションを防ぐストレッチ法で、それをATM(Anti Trick Motion)ストレッチングと名付けました。
図4 | 図5 |
小学生、中学生で体育座りがきついお子さんがいます。体育座りは安座(安座の呼称が正しいかは別して)ともいわれます。股関節が柔らかい子には楽な姿勢ですが、硬いお子さんにはこの姿勢は大変です。膝を胸に寄せるのが難しく両手に力を入れて膝を抱えていなければならず背中を丸めなければ座っていられないからです。 安座で楽に座るようになるには股関節が曲がるようにしなければなりませんが、股関節の屈曲の柔軟は、硬い場合は腰を曲げるトリックモーションが起こります。それを防ぎ股関節に的確に柔軟の力が働くように柔軟を行わねばなりません(図6)。 筋肉は疲労のため長距離を歩いた後のふくらはぎのように硬く盛り上がっています。それがとれると柔らかく細くなるのです。
図6 |
猫背の原因にも筋肉が硬い場合があります。腰が反って背中が曲がるタイプの猫背=S型猫背(写真2)の中には腰のインナーマッスルの腸腰筋(写真3)が硬い方がいます。
写真2 | 写真3 |
そのストレッチは腰を反らさない様に、仰向けに寝て両膝を抱え腰がベッドから浮かないようにして片足を伸ばして行わねばなりません(写真4、5)。このように体の硬い方には硬い人向けのストレッチング、柔軟法が必要なのです。
写真4 | 写真5 |
体の硬い方がストレッチングや柔軟体操を行う時には、本に書いてある方法をうのみにせずに、ご自分の体とコミュニケーションを取りながらご自分の体に合った方法を作り上げていただきたいと思います。ストレッチの一番大切な原理は 受け身です。伸ばすのではなく伸ばされる。 力を抜いて伸ばされる心地よさを味わって、体に感謝して、ゆったりとストレッチングをしてください。どんなに体の硬い方でも少しずつ柔らかくなってゆくでしょう。体のまだまだ硬〜い私が保証します。
『1日5分のトレーニングでねこ背は治る! 』宝島社 2012年9月刊行
『硬い体が驚くほどやわらかくなるストレッチ』日東書院 2013年1月刊行
『1日5分! ねこ背を治せば10歳若返る 』祥伝社刊 2013年2月刊行