病気は医療が克服してきたと固く信じられていて、医療制度の充実が至上命題として掲げられてきた。 しかし、結核などの減少が医療によるものではなく、環境(食・労働・生活など)の変化が主たる原因であることは医学史では周知の事実であるし、現在増加している成人病、アレルギー疾患は食生活や生活環境の変化が原因である。 その時代に流行った病はその時代の環境の変化によって増加し、医療が克服したのではなく、環境の変化によって減少していったのである。

 本書は胃の集団検診の見落としによる癌死亡例に直面した著者が集団検診の非科学性(例えば、胃癌が発見されるよりも見落としの確率のほうが高い)に気づき、「検診という早期発見治療理論」の幻想を捨て、泰阜村の医療システムを介護型に切り替えていった過程が示されている。
 高度医療の導入が必ずしも病克服の本質ではないことに気づかされる本である。医療の未来がこの小さな村で実践されている。

中央公論事業出版・1,200円